新着順:43/5886 記事一覧表示 | 《前のページ | 次のページ》

手紙38 時のない場所(3)

 投稿者:竹哲@らくらく安楽詩の会  投稿日:2019年10月19日(土)06時28分23秒
  通報
  「生きている死者からの手紙」(1914年の出版、ノンフィクション、著作権フリー)
        エルザ・バーカーによる記録
        金澤竹哲・訳


手紙38 時のない場所(3)


 私は糸杉の並木道を離れ、花が満開の森に囲まれた広い野原に出た。大気は春の香りが満ち、鳥がさえずっている。野原の中央には大きな円形の噴水があり、水を吹き上げては、羽毛のようなしぶきを撒き散らしている。言葉にならないほどの魅惑的な雰囲気が、あたりを満たしていた。花の芳香に満ちたその円形の天国のあちこちを、天使たちが歩いていたが、その多く、大部分は、人間として時を過ごしたことがあるに違いない。彼らは二人連れで、あるいはグループで歩きながら、心の中でほほ笑んだり、お互いにはほ笑みを交わしていた。

 地上ではよく”平和”という言葉を使うが、私がいたあの場所の平和に比べれば、地上の最高の平和もただの混乱でしかない。私は、自分が最もうるわしい天国のひとつにいたと理解したが、私はただひとりだった。

 孤独という考えが心に浮かんだとたん、しばらく前の手紙に書いたあの<美しきもの>が目の前に現れた。<美しきもの>は微笑んで、こう言った。
「孤独を悲しみのうちに意識した者は、もはや天国にはいられません。だから、あなたをもう少しここに留めておくためにやって来ました」

「ここはあなたの住む天国なのですか?」と私は尋ねた。
「いいえ、私はどこにも住まないし、どこにでも住んでいます。自らの意志で各地をさすらい、天上と地上のあらゆる場所にわが家のような魅力を見つけているのです」

「では、地上を訪ねることもあるのですね?」
「ええ、もっとも遠くの地獄にも行きますが、そこに長居はしません。私の目的はすべてを知り、それでいて何にも影響されないことです」

「地上は好きですか?」
「地上は私の遊び場のひとつです。地上の子供たちにときどき歌ってやります。詩人に歌を聞かせると、彼らは詩神がいるのだと信じます。ある夜、地上に住むある霊に、こんな歌を聞かせました」

 私の妹よ、あなたが気づいていなくても、私はあなたのそばにいる。
 私には、詩人は水の湧く井戸、その深みに我が身が映っている。
 私は光と色の魅惑に住む、生身の詩人は魔法の言葉でそれを空しく描こうとする。
 私は日没のなかに、星のなかにいて、月が年老い、あなたが若やぐのを見る。
 子供のあなたは流れる雲に私を探し、大人のあなたは恋人の瞳のきらめきのに私を空想したが、私は人々には捕まらない。
 
》記事一覧表示

新着順:43/5886 《前のページ | 次のページ》
/5886