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手紙36 空虚な球体(1)

 投稿者:竹哲@らくらく安楽詩の会  投稿日:2019年 8月28日(水)06時55分25秒
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  「生きている死者からの手紙」(1914年の出版、ノンフィクション、著作権フリー)
        エルザ・バーカーによる記録
        金澤竹哲・訳



手紙36 空虚な球体(1)

 しばらくまえに地獄を見たいと思ったと書いたことがあったね。ゆこうとしたが、呼び戻されたので手紙は未完となった。今日は話を続けたい。

 君には多くの地獄があることや、それらは私たちが作り出したということを知ってほしい。ありふれた説ではあるが、真実に基づいている。

 私は酔いどれが行く特別な地獄を見たいと思い、彼らがたくさんいる国々や、彼らに関係のある虚ろな場所を探して世界を巡った。こちらに来た魂は、特殊なケースを除けば、たいていは住んでいた場所近くにとどまっている。

 酔いどれたちが集まる地獄を見つけるのは簡単だった。彼らが何をしていると思うかね? 罪を悔いていた? まるで逆だ。彼らはアルコールの匂いや、さらに強いアルコールに耽溺した者たちの臭いでむせかえるような場所をさまよっていた。感受性の強い人が酒場に近づかないのは不思議ではない。

 私が見たことすべてを書こうとしたら、君は嫌悪し、拒否するだろう。ひとつふたつの事例で十分だ。
 私は自分を共感的かつ中立の状態にして、ふたつの世界を覗き込んだ。

 落ち着かない目をして顔に苦悶を浮かべた若い男が、「ジンの天国」と呼ばれる安酒場の一軒に入って行った。金メッキされて磨き上げられた、まがい物のマホガニーは旅人の目を奪い、「この世の天国」を味わえるかの印象を与えている。若い男の服はほつれており、靴もくたびれている。あご髭も伸びているが、髭剃り代金で一杯飲めるので、男はいちばん望むものを、そうできるうちに選ぶ。

 彼はテーブルにもたれかかり、魂を破滅させる合成酒を飲んでいる。彼に寄り添うのは、背が高いために彼の後ろからかがみ込む、おぞましくむくんだ顔の霊で、彼にぴったり張り付き、ウイスキー臭い息を吸い込む存在だ。それは私がこの世界に来てからはじめて目にした、もっともおぞましきアストラル界の住人のひとりだった。その生き物の手は(そう呼ぶのは活力があるからだ)、若い男をしっかり掴んでいて、長い裸の腕が彼の肩に廻されており、もうひとつの腕は尻に廻されている。その生き物は、犠牲者のアルコール漬けの命を文字通り吸い取っており、死んだことで一層強烈になった酒への情熱を彼を通して味わっていた。

 
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