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「手紙15」

 投稿者:世話人の竹哲です  投稿日:2019年 2月 4日(月)07時31分34秒
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  「生きている死者からの手紙」(1914年の出版、ノンフィクション、著作権フリー)
        エルザ・バーカーによる記録
        金澤竹哲・訳

手紙15 古代ローマのトーガ(訳者注、古代ローマ市民の外出着)

 この国のおもしろいところは、因習にはとらわれていないことだ。同じ服装をしている者はふたりとしていない――厳密にというわけではないが、多くの人が風変わりな装いなので、全体として見れば多種多様な外見をしている。
 私自身の服装は、基本的には地上で着ていたものと同じなので、遥かな昔の前世のひとつの記憶をたどって当時の装いをする実験をしてみた。
 ここでは誰でも望むとおりの服を着ることができる。ここに来たときに、どうやって服を着たのかは分からない。だが、服のことに注意を向けると、ふだんの服を着ている私がいた。服をこちらに持ってきたのかどうか、まだ分からない。
 ここには古代の服装をした人がたくさんいる。このことから、彼らが昔からここにいたとは思わない。彼らは古代の服が好きだから着ているのだろう。
 一般的に、ほとんどの人は地上で住んでいた場所の近くに留まっている。だが、私は初めからあちこちを見て歩いた。ある国から次の国へと大急ぎで移動した。ある夜(君の場合は昼だが)、私はアメリカで休んだ。次の夜はパリで休んだかもしれない。何時間も君の居間の長椅子の上で眠ったのだが、君は私がいることに気づかなかった。私が目覚めている時に何時間も君の家に滞在したならば、君は私の存在を感じただろうと思う。
 ある日、私がここに来て間もない頃、ギリシャの服装をした女性を見たので、どこで手に入れましたかと聞いてみた。彼女は自分で作ったと答えた。どうやってですか? と聞くと、こう言った。
 「あら、まず心のなかでデザインをするのよ。するとそれが服になるの」
 「あなたが縫ったのですか?」
 「いいえ、地上にいた頃のようではなくてよ」
 近寄って服を見ると、全体がひとつの生地でできているように見え、両肩のところで宝石飾りのついたピンでとめてあった。どこで宝石飾りのついたピンを得たのかと聞くと、友人がくれたと彼女は言った。そこで、その友人はどこで求めたのですかと尋ねた。彼女は、自分は知らないので彼に聞いてあげると答えた。その後すぐに立ち去り、それ以来彼女には会っていないので、答えはもらえないままだ。
 私も何か作れるかどうか実験を始めた。その時、古代ローマのトーガが頭に浮んだが、当時の生活で古代ローマのトーガがどのようなものだったか、まるで記憶がなかった。
 師に会った時に、自分で作ったトーガを着たいと言ったところ、師は、望む服の作り方をていねいに教えてくれた。心のなかでデザインとシルエットをしっかり定め、それをまざまざとイメージし、願いを叶える力によって思考世界の微細な素材をそのデザインの周囲へと引き寄せ、実際の服を作るのだという。
 「それでは」と私は言った。「あなたの言う思考世界の素材は、例えば、私の体を作っている素材と同じですか?」
 「つまりは」師は答えた。「ふたつの世界にはただ一種類の素材しかないのです。大きな違いはバイブレーションと希薄さです」
 ところで、私たちの服の思考素材は、極めて希薄な素材である一方で、体は濃密であるように思えた。私たちは、透明な天使が湿った雲の上に座っているようには感じないのだ。空間を移動する素早さを考えなければ、時々、自分の体が昔のように濃密だと思えてしまう。

 私には君がよく見えるので、君も希薄なのだと思える。これは想像するに、環境に順応するという昔からの問題なのだ。当初、私はうまくできなかったので、特定の行動をするに必要な量のエネルギーを調整するのが難しかった。ここではほんのわずかのエネルギーで移動ができる。最初は短い距離――ほんの数ヤード――を移動しようとして気づくと1マイルも先に行ったことがある。しかしいまはかなり上手に順応できている。
 再び地球へ戻った時のかなり厳しい人生に備えるために、私はエネルギーを蓄えている。いまいちばん辛い仕事は、ここに来て君の手を通して書くことだが、君はどんどん抵抗しなくなっている。初めの頃は全力を費やさなければならなかったが、いまは比較的わずかな努力で済む。それでも、一度に長時間書くには君の活力が不可欠だが、それはやめておこう。
 気づいていると思うのだが、君は書いた後で、最初の頃のように疲れ切っていないはずだ。
 私は因習にとらわれないことについて語ったね。魂同士は、堅苦しい儀式抜きで挨拶し合っている。2、3人のお年寄りの女性は見知らぬ人と話すのを恐れているが、たぶん、彼らはここに来てまもなくて、地上のクセが身に染み付いているのだろう。
 しかしながら、こちらの社会があまりにも自由で勝手気ままと考えてはいけない。そうではないが、こちらの人々は地上にいた頃のように、互いを恐れていないように見えるのだ。

 
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